人より長く生きるなんて良いことの方が少ないんだろう。 国のため民のためその身を縛り付け、それでもなお誰かのために悩む彼の姿を見る度に、私はどうしようもなく淋しくなる。あの小さな背中に一体どれ程の重責がのしかかっているのだろうか。そして私がお側に居ることで、それはどれだけ取り除けるのだろうか。何度も自問を繰り返してみても、なかなか答えは見つからない。それがもどかしくて焦れったくて、ああ、一葉もきっとこんな気持ちでいつも外界へ向かうのだろうな、と思った。 彼も一葉も優しい。優しいが故につらさも多くあるのだろう。春貎殿はその優しさが隙を生み、危機を招き寄せるかもしれない、と私に仰られた。確かに多くの人間の命を預かるものが、私情を挟んだり一時の感情に左右されることはあってはならないだろう。けれどやはり私は、彼の、藍様のあの優しさこそが強さの証であり、皆が彼を慕う理由であると思うのだ。 そして何より私が、彼のそういうところを愛しく、尊く想うのである。 「一葉は今回も収穫なしか…。」 水官長の仕事部屋で、どんよりと曇った空を見上げながら彼はぽつりと嘆いた。 「仕様がありません。そんなに簡単にいくものではないのですから。」 「ああ、そうだな…。」 藍様は苦笑いをしながら再び仕事をこなしていく。淡々と。 口には出さなくとも分かることもある。長く一緒にいるなら尚更だ。藍様は本当は自ら四凶を探しに、外へ行きたいのだろう。しかし仙となり人柱としてこの国に縛られた藍様は最早国の外へ出ることさえできない。代わりに一葉を行かせることすらも心苦しく思っているのだろう。どうしようもできないのは私も藍様も同じなのかもしれない。何もできないというのは、歯痒い。 一体いつになったら四凶を連れ戻すことができるのだろう。いつになったら彼の重荷は解けるのだろう。千年、二千年生きるわけではないと言っても、人の寿命よりも遥かに長く生きる身であれば、それはどんどんと重さを増して彼を追い詰めるのだろうか。それでもなお彼は人を想い、憂い、自分を責めながら生きるのだろう。つらさも飲み込んで気丈なふりをするのだろう。しかしそれは 「それは、あまりにも悲しいことだと思うのですけど。」
午後のまどろみ
小さくつぶやいた言葉は彼の耳には届かなかったけれど
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