ぶわあ、と食べられそうにない色をした魚が目の前を通り過ぎて行く。私はなんとなくそいつを目で追って、視界から消えると、再び目の前を通る別の魚に目を向けた。あ、こいつは食べられそうだ、と思いながら銀色の魚を先程と同じように目で追う。視界から消えると再び視線を戻す。私は、銃で撃たれても簡単には割れなさそうな厚いガラスに手をあてて、もう大分同じ行為を続けている。
「魚、好きなのか?」
すぐ後ろから声がくる。そういえば孝介と一緒に来ていたんだった。彼は私が水槽を見つめていた数十分ずっとそこにいたのだろうか。
「ねえ、孝介。知ってる?」
「何が?」
「魚ってヒトの体温で火傷しちゃうんだって。死んじゃうんだって。」
「…ふーん。」
私はそれきり口を閉じた。孝介も何も言わなかった。美味しそうな魚も美味しくなさそうな魚も、私たちの前をずっと静かに泳ぎ続ける。私は水槽にあてた手に力を込めてみる。もし私の体温が厚いガラスをすり抜けて伝わったなら、彼らはしんでしまうのだろうか

 

温もりと水葬