開かれた窓から柔らかな風が入ってきて、真っ白のカーテンと眠っている彼の髪をサラサラと揺らした。その柔らかそうな髪は、外から差し込むあたたかな光に包まれて、きらきらと煌いているように見えた。彼は胸を静かに上下させながら穏やかな顔で眠っていたが、その体はあちこち傷だらけで、真っ白な包帯に包まれていた。私はそんな彼の様子を見て、彼はもう消えてしまうんじゃないだろうか、と訳の分からない不安に襲われていた。何度も戦争を繰り返してきたその体はボロボロで、このままでは彼の存在が危うくなるのではないか、と考えたくも無いことばかりが頭をよぎってしまう。そのため、私は彼のそばを離れられずにいる。私が居ない間に、ふっ、と彼が消えてしまうのではないか、と、そんな風に思ってしまうからだ。 ひゅう、と先程よりも強い風が吹き、私は咄嗟に彼の手を握りしめた。ぎゅう、と強く握りしめると、もう片方の手が私のほうに伸びてきて、私の頭を撫でた。 「?」 「あ、 ごめんなさい。起こすつもりは無かったの。」 私が謝ると彼はふわりと微笑んで、「どうかしたのか。」と聞いた。綺麗な青紫色の彼の瞳が、私を真っ直ぐに見つめてきた。 「あのね、強い風が吹いたから、だから、ギルが風と一緒にどこかに行っちゃうんじゃないかと思って、」 「それで、俺の手を握ったのか?」 「、うん。」 しどろもどろになりながら私が説明すると、彼はニッと笑った。それから私を自分の元に引き寄せて、「俺は強いから消えたりしねーよ。」と自信満々に耳元で囁いた。あなたのその自信はどこからやって来るのだ、と思ったけれど、彼の温もりに包まれていたらそんなことはどうでも良くなってしまった。私が彼をぎゅう、と強く抱きしめると、彼も同じくらいの強さで私を抱きしめてくれた。彼の鼓動が確かに聞こえて、それだけで私は泣きそうになった。ああ、確かに彼はここに居るのだ。そう思うだけで胸がいっぱいになって、私は顔を彼の胸の中にうずめた。その規則正しい心臓の音に飲み込まれてしまいたいと、まだ消えない不安を胸にしながら思うのだった。 |