急 所 は 外 し ま し た
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私に出来ることは最早、1秒でも長く主人がこの世に留まれるように小さく動き続けることだけだった。私の動きが弱くなっていくのと共に、主人の体は先のほうからだんだんと冷たくなっていった。主人が敵に撃ち込まれた鉛玉は、幸い私に直撃することは無かったが、私から少し離れた太い静脈に大きな穴を開けた。その穴からはどくどくと主人の血が溢れ出して、止まる様子はこれっぽっちも見当たらなかった。先程から軍服を着た金髪の青年が出血を止めようと必死に手当てしているが、残念ながら主人はもう助からないだろう。もちろん私も。静脈が破れてしまったため私に送られる血液はほとんど無く、このまま出血多量でこの世を去るのは時間の問題である。そんなことはきっと主人を見れば一目瞭然なことなのだろうけど、それでも金髪の青年は必死に主人を助けようとする。それを見て私は嬉しいような悲しいような複雑な気持ちになった。きっと主人も同じ気持ちだろう。だって私たちは繋がっているのだから。 「、死なないでくれ・・・。・・・お願いだから・・・。」 金髪の青年は涙を流しながら主人の手を握った。とても、とても強く握りしめた。まるで主人の命をこの世に繋ぎとめようとしているみたいに。冷たくなった主人の手は、もう彼の手を握り返すことは出来なくなっていた。それでも彼は祈るように必死に主人の手を握りしめた。だが私も主人ももう限界だった。私はもうすぐ自分の役目を終えようとしている。私が止まれば、主人の目が彼を見ることも、主人の手が彼に触れることも、もう二度とないのだろう。そう思うと私は申し訳ない気持ちでいっぱいになったが、もうどうすることも出来なかった。闇はもう目の前まで迫ってきていたのだ。 もしも、私が話すことが出来たなら、彼に伝えたいことがある。 さようなら、最期に主人のそばに居てくれてありがとう。 そうして私も主人も 止まった。 |