ざくざくと雪を踏みながら、私たちは誰もいない土手を歩いていた。空はどんよりと曇っていて、雪が音を立てずに降ってくる。まだお昼なのに、あたりは薄暗かった。私は時折転ばないように下を見ながら、妹子さんと雪道を並んで歩いた。私の手には1つ、妹子さんの手には2つの買い物袋がぶら下がっていた。 「寒いですねー。」 「本当ですね。すみません、買い物に付き合わせてしまって。」 ただ思ったことを口にしただけなのだけれど、妹子さんには私が嫌々付いてきたと思われてしまったようだ。 「とんでもないです。むしろ私がお二人にお仕えしている身なのに・・・。」 「女の子1人に重い荷物を持たせるわけにはいきませんから。」 そう言って妹子さんはにっこりと私に微笑んだ。微笑みかけられた私はなんだか少し恥ずかしくなって俯いたまま歩いた。妹子さんの腕をチラリと見ると、しっかりとした筋肉が付いていて、男の人ってすごいなあと思った。いつも優しい妹子さんだから尚更それがたくましく思えた。 「それに元はと言えばあのアホ太子が風邪をひくのがいけないんですから。さんは何も気にすることはありませんよ。」 「そう、ですかね。」 「ええ、もちろんです。」 妹子さんはまた私にふんわりと微笑むと、今度は真顔で「それにしても『馬鹿は風邪ひかない』って、やっぱり迷信だったんですね。」なんて言うものだから私はくすくすと笑ってしまった。それを見た妹子さんも楽しそうに笑うから、しんとしていた薄暗い景色がなんだか明るくなったような気がした。妹子さんと一緒にいるとなんだか世界が色付いていくような気がするのだ。 そんなことを考えていると、ふと、妹子さんが私を見た。 「手、冷たくないですか。」 言われて自分の手を見ると、寒さで真っ赤にしもやけしていた。そんなに寒くないだろう、と手袋を置いてきてしまったのを後悔した。 「ちょっと待っててくださいね。」 妹子さんはそう言うと、両手に持っていた2つの買い物袋を片方の手で持って、もう一方の手で私の真っ赤になった手を握った。妹子さんの手は大きくて、私の手はすっぽりとその中に収まった。冷たかった私の手は、妹子さんのあたたかくて大きな手に包まれてぽかぽかとしていた。 「こうすれば冷たくないでしょう?」 のぞき込む様に笑いかけられた私は、恥ずかしいのと嬉しいのとで顔まで熱くなった。あんまり近くに妹子さんがいるから心臓がうるさいのが聞こえてしまうんじゃないかとドキドキした。 静かに降り続いている雪の中で、私たちは手を繋いで並んで帰った。手から伝わる温もりが嬉しくて、一面の雪景色が眩しく感じた。こんなにもあっという間に私の世界を塗り替えてしまうことが出来るのは、きっと世界中で彼だけだ。 |