「やあ、久しぶり。」 そう言ってにっこり微笑む彼女の顔は月明かりに照らされていて青白い。真っ暗な夜の教室という空間で、彼女だけが異質な存在のように思えた。真っ黒なスーツに漆黒の髪、異様に白い肌とチラリと見える刺し傷。闇に溶けてしまいそうなギリギリのところに彼女がいるような気がした。久しぶりに会った彼女は相変わらず僕よりも小さくて細くて、笑っていた。前と違うのは僕に穏やかな殺意を向けていることくらいだ。 「何の用だい?こんなところに呼び出して。」 僕はやや声のトーンを落として、それから軽く彼女を睨む。彼女は笑みを崩さない。 「酷いなあ。久しぶりの再会なんだからもっと喜ぼうよ。」 「こんな時間にこんな場所に呼ばれれば誰だって不機嫌にもなるさ。おまけに相手が銃なんて隠し持っていればなおさらだ。」 彼女を睨んだまま話すと、彼女は「あ、バレてた?」とわざとらしく言った。僕はさらに眉間に皺を寄せて睨む。そんな僕の反応を楽しむように彼女はにこにこと笑う。その一切変わらない張り付いたような笑みに、僕は心から嫌悪を感じる。普段は感情の揺れなんてちっとも見せないのに、彼女に会ったこの数分間の間で僕の心の中は黒くて重い、気持ちの悪い感情に支配されてしまっている。一刻も早く彼女の前から消えてしまいたい。 「どうしたの?恭弥。顔色悪いよ。」 だまれだまれだまれ。違う。お前はじゃない。の顔と体をかぶった偽者だ。はそんな気持ちの悪い笑い方をしない。彼女は良く笑う人間だった。彼女は表情が豊かで、まるでずっと仏頂面をしていた僕の分まで表情を変えているんじゃないかと思うくらいだった。無邪気に笑ったり、優しく笑ったり、綺麗に笑ったり。お前は僕の知っているじゃない。やめろ、その顔でそんな笑い方をするのは。吐き気がする。 僕が愛用のトンファーを取り出して構えると、はニッと笑った。 「ボンゴレの雲の守護者、雲雀恭弥の抹殺があたしにくだされた任務なの。」 「ふうん。それで?」 「だから、ね、 さようなら、恭弥」 彼女は昔のようにふんわりと微笑むと銃の引き金を引いた。パアンッ その学校に不釣合いな銃声は大きく響いて、それから闇に吸い込まれるように消えた。 真っ赤な血は彼女の真っ白なシャツにしみをつくりながら、どくどくと溢れてくる。彼女が自身で開けた、その胸の穴からとめどなく溢れてくる。僕に別れを告げた彼女は、自分の胸に銃口を当てて自らを撃った。僕はわけが分からず、ただ彼女を抱き上げて溢れる血を見つめていた。だんだんと彼女の体温がなくなっていくのを肌で感じる。ポタリと何かが彼女の顔に落ちてきた。一呼吸遅れて、それは僕の涙だと気付いた。 ねえ、、ふざけないでよ。これは何さ。君は僕を殺しに来たんじゃなかったの。それが君に下された任務じゃなかったの。もう昔の君ではなくなってしまったんじゃなかったの。それなのに、どうして君は笑ったのさ。どうして泣いているのさ。どうして目を開けてくれないのさ。 真っ暗な教室の隅で、君が確かに消えてしまうのを感じた僕は、この世界で独りぼっちになった のだと気付いた。 |