扉を開けると、彼は真っ暗な部屋でベッドに座ったまま俯いていた。顔が見えなくて、何を考えているのかは分からなかった。スザクとの話しは終わったのだろうか。最後の夜に、彼は今何を思っているのだろうか。ずっと一緒にいたのに、あたしはちっとも君のことが分からないよ、ルルーシュ。

 

「ねえ、ルルーシュ。」
か。なんだ?」

 

顔を上げた彼は、別に泣いているわけでも、喜んでいるわけでもなくて、いつもと変わらない顔をしていた。真っ直ぐな、澄んだ瞳をしたいつもの彼だった。

 

「ねえ、ルルーシュ。怖くはないの?悲しくはないの?憎くはないの? ねえ、君は明日この世界から消えてしまうんだよ ? 」

 

あたしは恐ろしいよ、君が消えてしまうことが。とても悲しいよ、これが最後だということが。憎くて仕様がないよ、君のことを知らずに、君を憎む人々が。それなのに、どうして君はそんな穏やかな顔をしているの?どうしてそんなに優しく微笑んでくれるの?わからないよ。わからないから、もっと知りたいことが沢山あるから、まだ一緒に居たいのに。どうしてこれが最後なのさ。

 

「怖いはない。悲しくもない。憎くもないよ、。俺が消えることで、ゼロが勝つことで、俺が、みんなが望んだ平和な世界が訪れるんだ。」
「でも君はその世界には居れないんだよ?」
「かまわないさ。俺はたくさんの人を殺した。たくさんの罪を犯した。だから、」
「だから、君が責任を取るというの?それは、それは皆にとっては良いことなのかもしれないけれど、一番良い方法なのかもしれないけれど、でも、あたしにとってはあんまりだよ、ルルーシュ。」



「すまないな、。お前には結局何一つしてやれなかった。」

 

それは違うよ、ルルーシュ。あたしは君にたくさんのものを貰ったよ。君はいつだって一人で抱え込んで、一人で背負って、ナナリーのために、世界のために戦ってきた。そんな君に何もしてあげられなかったのはあたしの方だ。そして、もう何もしてあげることが出来ないまま君は消えてしまう。それがたまらなく悔しいんだよ。ルルーシュ、君は確かに世界にとって憎むべき独裁者かもしれない。でも、君のことを分かってくれる人が少しでも居ることを忘れないで。死ぬまで君を大切に思ってくれた人を、君のために命を懸けた人を、君の願いをこれから背負っていく人を、どうか忘れないで。ルルーシュ、あたしは、



「愛しているよ、君は確かにあたしにとっての正義だった。全てだった。」

 

あたしは真っ直ぐ彼の瞳を見つめて、その姿を脳に焼き付ける。心から敬意を込めて敬礼をすると、ルルーシュもあたしに敬礼をした。これが別れの挨拶なのだと思うと、目尻が熱くなった。

 

 

「ありがとう。さようなら、ルルーシュ・ランペルージ。」


「今までありがとう、さようなら、。    俺も、愛しているよ。」

 

バタン、
扉を閉めて、ずるずるとその場に座り込む。生暖かいものが頬を伝ってきた。拭っても、拭っても、次々に溢れてきて、止まらなくて。あたしの嗚咽だけが、広くて暗い廊下に響いた。
涙はまだ止まってくれない。

 

 

 

彼が消え、世界が平和に向かい始めて1年になった。誰かと顔を合わせるのが嫌だったから、朝早く小さな墓地に向かった。彼のお墓に一礼して、花を手向ける。此処に彼が眠っているのかと思うと、なんだか変な気分だ。

 

「やあ、ルルーシュ。1年ぶりだね。そっちはどう?みんなとちゃんと仲良くしてる?こっちは、君のおかげで平和な世界になってきたよ。ねえ、ちゃんと見てる?君の望んだ世界を、皆の笑顔を。ねえ、今どんな顔してるの?笑ってる?泣いてる?お願いだから笑っていてよ。だって、こんなに素敵な世界なんだもの。」

 

君が壊して、作り上げた世界はとても美しくて、とても愛おしいものに溢れているよ、ルルーシュ。

 

 

マリア

 

   微笑む

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コードギアス反逆のルルーシュR2 ルルーシュ追悼
   ギアスはわたしに色々なものをくれた作品でした。感動をありがとうございました。いつまでも大好きです。
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