「泉孝介、わたしと一緒に心中しませんか?」 ソイツはいきなり目の前にやってきて、何かと思えば、にっこりと笑いながらとんでもないことを言い出した。その笑顔に不釣合いな言葉を、俺はどうにか色んな意味に繋げようとしたがどうにもならなかった。 「何言ってんの?お前」 「わたしと一緒にこの世界を飛び出しませんか?」 俺が少しイラついた口調で返事をしても、ソイツはまたにこにこしたまま訳の分からないことを言い放った。俺は、まだ眠くてちゃんと活動してない脳みそを必死に働かせて考えたが、どう考えても「一緒に死のう」と言ってるように思った。冗談、なんで俺がこいつと死ななきゃいけないのか。 「悪いけど他の奴誘ってくれる?俺、眠いし部活あるし。」 「だめだよ。泉孝介じゃないとだめなんだよ。だって、わたし、死ぬときは自分が心から愛している人と一緒に死のうって決めたんだもの。だから君じゃなきゃ意味が無いんだよ。ねえ、二人ならきっとこんな世界よりもずっとずっと素敵な世界へいけると思うの。泉孝介もそう思うでしょう?だってこんなに素晴らしいことって無いものね。」 そう言ってソイツは俺に手を差し伸べた。俺はその手を無視してソイツを睨む。面倒くさいのに捕まってしまった。こんな頭のおかしい奴に心中の話を持ちかけられるなんて、俺は相当ついてないに違いない。俺はひとつため息をついて、口を開いた。 「俺のこと心から愛してるくせに俺の意見は聞いてくれないワケ?」 「ん、それもそうだね。泉孝介はどうしたいの?なんでも聞いてあげるよ。」 「なんでもな。」 「うん、なんでも。」 ソイツは嬉しそうににっこり微笑んで、はっきりとそう言った。そんなソイツに俺もにこりと微笑む。 「今すぐ消えて」
泉孝介の憂鬱
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