彼のその諦観したような瞳が嫌いだった。いつもは澄んだ深い海の色をした瞳が時折曇ってしまうのだ。その瞬間が、たまらなく嫌いだった。だってそれは私が彼に送った言葉たちは彼の心には届いていなかったということなのだ。
「何を考えているの?」
「  」


「当ててあげようか。」
「、」




「・・・。ねえ、ナルト、ミナトさんがナルトに九尾を封印したのはナルトを信じてたからで、だから3代目もナルトを大事にしてたし、自来也がナルトに未来を託したのもナルトを信じてたからで、5代目もナルトを信じてるからナルトはこうやって任務にも出れるわけで、同期のみんなもいつもナルトに元気をもらってて、サスケだってナルトを大切だと思ってたから戦ったわけで、だからきっとサスケは戻ってくるよ、ね。だから、・・・だからさあ、」
「分かってる、分かってるよ、。」


ナルトは困ったように笑う。秋の冷たい風が頬に当たって、なんだか今日はそれが痛く感じた。ナルトの瞳は蒼然としていなければならないのだ。そうでないと私はだめなのだ。


「・・・ちがう、違うんだよ、ナルト。」
「・・・?」
「だから、ナルトはちっとも分かってないんだよ。ナルトはそんな曇った目じゃなくて凛としてないと、そんな困った顔じゃなくて自信にあふれた笑顔じゃないと、そうじゃないとダメなんだよ。」


「それ、去年も言ってたね。」
「うん」
「一昨年も、その前も言ってたね。」
「うん」


「どうして、」
「ずっとずっと言っててもナルトが変わらないのは、私が、私の言葉が、君の心には届いていないってことなんだね。」
「そんなことはないよ。」


紡いだそばからするする解けて、君の心に絡まりもしない。この日になるといつもその瞳をする、そんなナルトは嫌いだよ。自分が生まれてきたことを恨むなんてそんな悲しいことがあるだろうか。例えばミナトさんがナルトに九尾を封印しなかったとして、そうしたらナルトは生まれたことを後悔しなくて済んだのだろうか。例えば3代目や自来也が死ななかったとして、そうしたらナルトは自分を恨まなくて済んだのだろうか。例えばサスケがどこにも行かなかったとして、そうしたらナルトはいつも笑っていてくれたのだろうか。
言葉で伝わらないのなら、溶解してでも分からせたいのに、不自由な私たちではそんなことはできなくて。だから伝わるまで同じ言葉をずっと送ろうと決めたのだ。そんなことはない、と言う彼の顔はまた少し困ったような顔で、私はきっとその顔を見たら泣き出しそうな顔をしてしまうから、顔を上げずにただ言うのだ。
生まれてきてくれてありがとう。

 

融化するより早く