ひやり。俺の頬に触れたの手はゾッとするほど冷たくなっていて、俺はその手を思い切り握りしめた。けれどの手は益々冷たくなっていく一方で、もう俺の手を握り返すことも出来なくなっていた。

「・・・っ!」

の真っ黒な瞳が必死に俺を捉えようとする。の瞳には鮮やかに俺の姿が映し出される。酷い顔だ。

「ナル、ト。・・・死に、たくは ないの。死にたく、は・・・ ・・・。」
震える声でそう言ったかと思うと、の瞳はゆっくりと閉じていった。声をかけても、身体をゆすっても目を覚まさなかった。「私は消えたいの。」以前そう言ったの言葉を思い出した。
「私が生きていた証も記憶も全て消し去りたいの。皆の記憶から、歴史から私の存在を消してしまいたいの。初めから居なかったことにしたいの。」
柔らかな笑顔ではっきりとそう言っていたのを思い出した。本当に、本当に消えてしまえばよかったのに。世界から消えてしまえばよかったのに。記憶になど残らなければよかったのに。初めから居なかったことになればいいのに。そうすれば、こんな死にたくなるほど辛い思いはしなくて済んだのに。傷ついた君を見なくて済んだのに。動かない君を抱きかかえなくて済んだのに。でも確かに君は此処に居るんだ。冷たくて、もう動いてはくれないけれど、笑いかけてはくれないけれど、確かに此処に居るんだ。俺の記憶にもしっかりと刻み込まれているんだ。
「・・・ ・・・ ・・・ ・・・。」
君のいないこの世界が消えてしまえばいいのに。
Cannot Delete