私は彼を殺さなければならない。なぜなら、私はこの里を、火影を、里の人々を、命をかけて守りぬかなければならないからだ。それが忍の使命だからだ。だから私は彼を殺さなければならない。木の葉を抜け、牙を剥いた彼を。家族を失い、友を捨て、復讐の為にしか生きられないこの哀れな少年を。 「お前達木の葉は、俺の家族を、兄さんを殺した。俺たちの生活をめちゃくちゃにしておいて、のうのうと生きているお前達を俺は許さない。例え幼稚な考えだと思われたとしても、俺の意思は変わらない。」 「うん、」 サスケの憎しみのこもった鋭い瞳は私を捉えて離さない。わたしに刀を向け、殺気を放っているサスケが悲しくて仕方がない。その悲しみと憎しみで押しつぶされそうな背中を支えてやれなかったことが、悔しくて仕方がない。私は結局、何も出来なかった。イタチを止められなかった。サスケを止められなかった。そして、今私はサスケを殺そうとしている?そんなの、 「分かるよ。」 そう言った途端、サスケの殺気が増したのが分かった。サスケの刀を持つ手が少し震えていた。 「お前に、お前に何が分かるんだよ!」 私の刀が、私の手から離れ、カタンと落ちた。それから、私はサスケの顔を見つめて笑った。 「分かるよ。だって、だって私もあなたの家族が、イタチが、サスケが、大好きだったから。私にとってとても大切な人たちだったから。イタチが、私を好きだと言ってくれたから。 本当に大好きだった。小さい頃から一人だった私にとって、あなたたちは家族同然だった。 許せなかったよ。3代目の話し合いでの解決の案を無視して、うちは一族の皆殺しを決定したやつらを。イタチを利用し、追いつめ、罪をかぶせた奴らを。 お前こそ分からないだろう?あたしがあの時どれだけやつらを殺したかったか。どれだけ憎かったか。 でも、 イタチが自分を捨ててまで守った木の葉を潰すことはできなかった。彼の優しさを、私の憎しみで潰したくはなかった。何もしてあげられなかったあたしに、ありがとうと言ってくれた彼の意思を殺すことなんて出来なかった。だから、私は、彼が命を懸けて守ろうとしたものを、命懸けで守る。だからサスケ、あなたに木の葉を潰させはしない。イタチが守ろうとしたものを、壊させはしない。」 「でも、でもね。サスケ、あなたもまた、イタチが命懸けで守ろうとしたものだから、何よりも大切に思っていた人だから。だから、私はあなたを殺すことも出来ないんだよ。これ以上あなたを傷つけたくないんだよ。ねえ、どうすればいいのかな。どうすれば良かったのかな。」 力の無い笑みを浮かべる私に、サスケはもう殺気を放ってはいなかった。少し俯いて、それでも私を捉えたままのその瞳は深い悲しみに包まれていて、私はなんだか泣きたくなった。ああ、彼はいつから泣くことを止めてしまったのだろう。いつから笑うことを止めたのだろう。 「ねえ、私はね、サスケも、イタチも、里も、里のみんなも大好きだよ。皆が幸せであって欲しいと心から願っているよ。誰にも、もう私たちのような思いをして欲しくないんだ。ねえサスケ、今は辛いかもしれないけど、でも、君のことを大切に思ってくれる人がたくさんいるじゃない。だから、ねえ、そんなに悲しい目をしないで。」 |