肉が裂かれる音と、恐怖と悲痛の入り混じった悲鳴と、血生臭い匂い。あたしは今とても不愉快だ。実に不愉快だ。きっと今あたしは物凄い顔でこいつを睨んでるに違いない。そんなあたしの様子を気にする様子も無く、(むしろあたしなんてモノは今こいつの世界にはいないようだ)わけの分からない行動を繰り返しているこいつをぶん殴りたい。否、いっそ殺してしまいたい。けれど、今こいつを殺せばさらにこの胸糞悪さが増すのは確実であるので、任務で疲れ切って動くのが面倒なあたしはこうしてさっきからこの馬鹿の行動を眺めているだけに終わっているのだ。そのうち慣れるだろう、などとわけの分からない結論に辿り着いたのだったが、この数分で慣れるどころか一層気持ち悪さが増した。 「ねえ、ソレ楽しいの?」 痺れを切らしたあたしが尋ねると、サスケはまるで今まであたしが居たことなんか知らなかった、みたいな顔をして、それから「別に。」と、本当にどうでも良さそうに言った。 別に、ってふざけんな。未だに猫やら犬やらを切り刻んでいるサスケをさっきより3割り増しで睨む。任務で殺した大名のペット達は見るも無残にクナイで切り殺されて、もう何がなんだか分からなくなっていた。もくもくとクナイを振り続けるサスケの顔にこそクナイをぶっ刺してやりたい。お前、頭どうかしてるよホント。まだ、殺しに快楽を覚えているとか、血に興奮するとか、そっちの方がよっぽど正常に思えた。いつもと変わらない表情で一言も発さずに殺戮を続けるこいつこそ狂気じみている。狂ってる。 面倒くさい、あたしは心からそう思った。恐怖だとか憐れみだとか、そんなものは感じなかった。かわりに吐き気がするほどの嫌悪を感じていた。今こいつがやっているようなことを、あたしがこいつにやったとしても同じ表情のままでいる気がして、叫び声なんてちっとも上げない気がして、尚更気分が悪くなった。そういうあたしも、コイツほどではないにしろ、狂っていて頭がおかしいのだ。 「犬猫殺し終わったら、次はあたしでも殺す気?」 いつの間にやらクナイを捨て、刀に持ち替えてあたしを見下ろすように立っていたサスケに嘲笑を浮かべて問う。 「知るか、そんなこと。」 相変わらず同じ表情のままそう言った。 お前が知らなきゃ誰が知ってるっていうんだ。ふざけやっがって、この野郎。ああ、もう気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。 プツン
いつも思う。人なんて簡単に死んでしまうものだなあ、と。サスケの腹に刺さったあたしの刀を見て改めて思った。ただ、あの肉を切り裂く柔らかな感触がまとわりついて離れてくれない。気持ち悪い。不愉快を通り越して不快である。ゴロンと転がったサスケを見て、ああ仕事増えちゃったなあ、と少しばかり後悔した。少しだけ、だ。むしろさっきまでのドロドロとした気持ち悪さはすっかり消えて清々しいくらいだ。ヒュンと刀を一振りして血を飛ばす。ぐるりと辺りを見回しても、ごろごろと死体が転がっているだけのつまらない風景があるだけだ。 「サスケ、もう帰るよ。いつまでも寝てんな。」 「・・・ふ、ざけんな。テメーのせいだろうが。」 サスケは血の止まらない腹を押さえながらあたしを睨む。あたしはそれに応えるようににっこりと微笑んだ。 「知るか、そんなこと。」
夜明けのダウト
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