昼間に食べたご飯やら野菜炒めやらが一気に逆流しようとしてくるのを必死に抑えてその場にうずくまった。いや、昼に食べたものなんてとっくに吐き出してしまったんだっけ?容赦なく込み上げてくる胃液の酸っぱさが口まで達してきて今日何度目かの嘔吐をした。ぽたぽたと口から垂れる胃液を見て、やっぱり昼ご飯なんてとっくに身体の外に出ていたか、とボーっとする頭で思った。鳥かごから出たがる鳥じゃあるまいし、口から出てきたところで自由になんかなれるわけもないのにどうしてこの身体は言うことを聞かないか。今あたしひどい顔してるなきっと。 ここ最近のことだ、身体がおかしくなってきたのは。人を殺したり、死体を見たりすると嘔吐が止まらなくなる。仕事上そんなものは見慣れているし、人を殺すのに躊躇もしなくなった。はず、なのに。なんで今さら・・・。そのうち元に戻るだろう、と任務を増やしてもらい休むことなくこなしてきた。結局戻るどころか悪化してしまい今に至るわけだが。 「おい、さっさと帰るぞ。」 うずくまってるあたしを面倒くさそうにに眺めるそいつを嫌悪感たっぷりの目で睨んでいる間にも気持ちの悪さは消えるどころか増してゆく一方だ。仲間の心配くらいできないのか、この金髪野郎が。ああ、お前にとってあたしなんて仲間でもなんでもないのか。それが当たり前で、あたしだって仲間なんて必要ないと思ってたのになんなんだこれは。 「ああ、なんだかお前あたしに似ててむかつくな。」 「あ?何言って・・・」 「重いし、傷つきたくないし、面倒だから独りでいい、ってそんなとこだろう?仲間なんていらない、大切なものなんていらない。守れなかったとき絶望が襲うから、失くしたとき前が見えなくなるから、拒絶されたとき心が消えるから、だからひとりの方が楽だ、って。そうなんだろう?」 あたしが口を開くたびに金髪の眉間に皺が増えていく。ああ、やっぱり図星なんだろ。あんたの考えてること気持ち悪いくらい分かるよ。だって似てるんだもの。もし、きみがそのうち今のあたしみたいになったらそれこそお笑いだと思わないか?「死」を、「孤独」を恐れるくせに自分から一人になる道を選んでるんだ。愚かだと指をさして笑う者すらいないのさ。今のあたしがまさにそれだ。誰かを守る為でも、救う為でもなく、ただひとを殺す為だけの力を見てきみは美しいと思うか?あたしは思わないよ。汚いものを見ると不快になるだろう?あたしはそれなんだよ。ひとが死んでゆくところを見て気持ち悪くなったんじゃない。ひとを殺す己の力と身体がひどく汚いことに気付いたんだよ。そしてもう遅かったんだ、拒み続けた先にあるものなんて一つもないことに気付いたんだ。もう手を伸ばしたところでかすりもしないところまで堕ちてしまったんだろうね。 「お前に何が分かる、」 「分かるさ。」 吐き気がするくらい分かってしまうから、本当はもうあたしに近づかないで欲しいのだけれど、このまま一人はいやだから、せめて君の記憶のずっと端のほうにでも残っていられるように良いことを教えてあげよう。 「ナルト、大切な人を見つけるんだよ、その人を守るんだよ、そのための力をつけるんだよ。きみはまだ間に合うからさ。」
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