「高杉ー、」
「ああ?」

「人生って何だろうね。」



お隣はエキセントリックガール


また始まった。朝のHRまでには時間があるため一眠りしようと顔を伏せたその瞬間、狙ってきたかのように俺の名前を呼び、何かと思えば「人生って何だろうね」なんてお前は中学生か、というような質問が何の前ぶりもなく降ってきた。毎度毎度思うのだがこいつはちょっと頭のねじがゆるんでいると思う。「毎度毎度」と言いたいくらいにしょっちゅう俺に絡んではあんな感じの質問をぶつけてきたりする。好きな人にちょっかい出したいとかいうものでは絶対ない。ただ俺が隣の席ですぐに話しかけられるから、ってそのくらいの理由である。きっとこいつは目の前に猫がいれば、俺とおんなじように絡んでいくに違いない。猫相手に自分の政治論を語ったり、意見を求めている姿がリアルに想像できてしまうあたり、ある意味こいつは凄いやつだと思う。あくまでもある意味で。そして毎回毎回こいつの会話に付き合ってしまう俺は相当暇人で、こいつと同じく頭が可笑しいのかもしれない。いや、やっぱりこいつと同じはない。俺のがまだ正常。


「人生って・・・出会い、とかか?」
「ちょ、お前もうちょっとその顔にあったこと言えよ。『俺は突っ走っていくだけだ!』みたいなさー。」


そんな失礼極まりない台詞をポンと言ったと思ったら、次の瞬間大爆笑。「ひー 『出会い』だって!腹痛い!腹筋壊れちゃうよ!」いっそそのまま笑い死んでしまえ。げらげらと笑い転げるこいつの頭をぶん殴ってやりたいと心から思う。やっぱり顔でもいい。大体「突っ走っていくだけだ!」ってどんなイメージになってんだ俺。くそ、真面目に答えてやるんじゃなかった。「はははー」てゆうか、いつまで笑ってんだこいつ。


「うるせー。いい加減だまりやがれ。」
「申し訳ー。そっか、出会いか、なるほどね。つまりあたしたちが短い人生の中でこうして出会えたことを高杉は嬉しく思ってるわけなんだな?うん、それってすっごく素敵。でもまあ、人生って楽しいことばかりじゃないわけじゃない。例えばね、そう、勉強!誰だって勉強は嫌いじゃない。なのに日本という先進国に生まれた時点であたしたちの人生の中には勉強しなければならないという枠がつくられた。mustなんだよmust!あ、have toもあるね。小学校、中学校と義務教育を受けて、ほとんどの人が高校へ進学し将来を模索する。しかぁし!始まりはみんな同じでもだんだんと差が開いてきちゃうわけだよ。それはもう機械で精密にぱっくり開かれたアジの干物のごとく!幼稚園のころから「お受験」なんて言って塾に通っちゃってる子もいれば、給食のためだけに学校に来てる子もいるわけだよ。ちなみにあたしはバリバリ後者だったけど。だって給食っておいしいよね!あたし必ずおかわり争奪戦にはまってたもの!その時すごく思っていたのがね、給食費をちゃんと払わないようなやつらにおかわり争奪戦に参加する資格はあるのか?!いや、そんなものあるはずがない!給食費未納者は給食のおばちゃんたちをただの食物製造機としか思っていないに違いない!給食のおばちゃんたちは汗水垂らしながらあたしたちのために大きなお鍋やらフライパンやらで何百人分ものご飯をつくってくれているわけだよ。それなのに金も払わず、ましてやおかわりなど言語道断!とくにそれがデザート争奪戦だったときには許せないね。お前達にこのオレンジシャーベットを食べる資格はない!って一回だけ言ったことあるんだけど、そしたらそいつの家が給食費を払うようになったんだよ。私の給食を愛する心が彼らを悔い改めさせたわけだ。いやー愛の力ってすごいね!オレンジシャーベットもすごいよね。なんであんなに美味しいのかしら。でもあれ食べるのちょっと大変だと思わない?オレンジの皮にシャーベットがくっついてなかなか取れなかったりするんだよね。そりゃあ離れ離れになるのは寂しいことかもしれないけど、あたしだって食べたいわけだよ。二人の間を引き裂くのはとても心苦しいんだけど、いずれはシャーベットの方は溶けて、皮の方は生ゴミへとグッバイするわけじゃない?だからそんな辛い別れかたをするよりはあたしに食べられた方が幸せだったと思うんだよ。これってエゴなのかなあ。辛い別れかたでも最後まで「オレンジシャーベット」でいたかったのかなあ。愛ってむずかしいね。ね?高杉。」


ノンブレス&マシンガントークで人生を語ったの顔はオレンジシャーベットへの後悔なのか愛のむずかしさに対してなのか、眉間に皺を寄せうん、うんと唸っていた。人生とゆうかほとんど給食の話で終わった気がする。とゆうか絶対そうだ。「オレンジシャーベット」から「愛のむずかしさ」を奇跡のように導きだしたこいつは本当に一体何者だ。     あれ、そもそも何の話してたっけ?     ああ、愛の力だっけ?    あ?なんか違うな。 ・・・ ・・・ ・・・ どうでもいいや。


「ねー高杉ーオレンジシャーベット食べたくなったねー。」


けらけらと笑いながら、またどうでもいいことを本当に嬉しそうに話す そんなこいつが



す、き・・・ ・・・ ?

 

ああ、ちょっと待ってくれ、どうやら俺まで頭が可笑しくなってきた。

ゆっくりと感化されてゆく
                                                         (これが愛の力なのか・・・!

 

 

(08.06.24)「t!nt」様に提出