ぼたぼた、と涙が頬を伝って地面へと落ちた。二度目の人生で生まれて初めて見た日の光に、思わず目をぎゅっと瞑ると、流れた涙でまた地面に染みができた。こんなのは全部冗談だと誰かに言ってほしかった。大好きだったはずの大嫌いな人たちはみんなみんな地面に横たわっていて、いつもは真っ白なその白衣が真っ赤に真っ赤に染まっていた。もしかしたら仲間になってしまうかもしれなかった、その子たちの入った液体も赤黒くに濁っていた。生きている匂いがしなかった。血の匂いばかりが鼻にまとわりついて嗅覚はもうおかしくなっていた。
 ぼやける視界の中で、彼だけが一人立ち尽くしていた。見たことのない濁った瞳でどこか遠くを見つめている。
 ああ、彼も泣いている。涙が流れていなくとも、彼の全身から悲痛な叫びが聞こえてくるようで私は思わず耳をふさぎたくなった。目も覆いたいし、この匂いももうかぎたくなかった。けれどどうしてか私も彼と同じように立ち尽くしていた。涙が勝手にあふれては落ちる、ぼやけた視界の端で彼ともう形もよくわからないような、かつての仲間を見て思った。
 誰が悪くて、誰が苦しくて、誰がおかしいのか。誰を恨んで、誰を許して、誰のために生きればよかったのか。聖戦だ、世界のためだ、と無理やり連れてこられて戦って、みんなみんな死んでいって遂に自分の番がきて、やっと死んだと思ったらまた目が覚めて、実験実験実験の繰り返し。全部ぜんぶ思い出してしまったから。私もユウもアルマも。
 セカンドの実験は失敗だ。大失敗だ。きっと中央庁から怖い顔した人たちがきて全部なかったことにするにちがいない。わたしたちなんて生み出されなかったことになるに違いない。きっときっと殺される私もユウも殺される。このままではいけない。
「…ユウ、」
 振り絞って出た声は掠れた小さな声だったけど、もう廃墟のようになったこの空間で彼の耳に届くのには十分だった。私の声に反応して、人形のように固まっていた彼はゆっくりと振り向いた。焦点の会ってないその目には、ちゃんと私が映っているのかどうかよく分からなかった。私は嗚咽が漏れるのを抑えながらゆっくりと言った。
「ユウ、逃げよう…。二人で逃げよう。」
 どこか遠いところへ。教団の人間が誰も来ないところへ。戦争も何も関係のないところへ。二人で逃げて静かに暮らして、今度は静かに死んでいこう。ねえユウ、私は世界を恨んでいる。道具みたいに私たちを扱う中央庁も、恨んで良いと言って優しくする化学班の人たちも、何も知らずに幸せに生きている人も、イノセンスなんて訳のわからないものを授けたかみさまも、全部ぜんぶだいきらい。でも、でもね、ユウとアルマと3人でいたあの時間だけは少しだけ幸せかもしれないって、少しは世界に感謝してもいいって思えたの。
「ユウ、行こう…ね?」
 彼の瞳がわずかに揺れて、今にも泣き出しそうな顔になった。私はゆっくりと彼に近づいた。彼の傍まで行って、もう誰のだかわからないほど血を浴びた彼の顔を拭った。それからわたしはゆっくりと手をさしだす。かれもまた、手をさしだしてわたしの手をとった。後ろからは騒ぎを聞きつけたらしい支部の人たちが、こちらに向かってくる音が聞こえた。私たちは手をとりあってそして

 

終末への逃避行
そして彼らが血まみれになった自分たちの仲間を発見したとき、もう幼い二人のかげはなかった。