朝、目覚めると右腕がなかった。肩から先が全部なかった。起き上がろうとして左足の膝から下がないことに気付いた。とくには驚かなかった。なんとなくだけど記憶があった。任務で、アクマがいっぱいいて、リナリーの背後からアクマが来たことに気付いて、でもリナリーはそれに気付いていなくって、それで。うん、それでだ。そこから先は思い出せないけど。とにかくリナリーを庇って、それでこの有様かー。あの後他のアクマはきっとリナリーたちがみんな倒してくれたんだろうなー。あたし多分、いや、きっと足手まといだったろうな。なんかヘコむなあ。まだ死んだほうがカッコついたかもしれない。生きててもこれじゃあ戦場には出られないし。あれ、あたしこれから先どうするんだろう。
そんなことを考えていると不意にコンコンとドアがノックされた。どうぞ、と言うと勢いよくドアが開いた。
「!起きたんですか!」
「やあ、アレン君。おはよう。」
「おはようございます。元気そうで良かったです。」
そう言ってニッコリと笑うアレン君はつくづく紳士だと思う。やわらかな物腰とか細かい気遣いとかさりげない優しさとか。眉間に皺が寄りっぱなしの神田にはぜひどれか一つでも学んでいただきたい。無理ならせめて人に刃物は向けてはいけない、くらいの一般常識は身につけて頂きたい。
「あのさ、あたしのケガって、」
「リナリーを庇ったときのですよ。」
「あー、やっぱり。」
てか、これ怪我のレベルじゃないよねー。あははー。と笑ったら、アレン君は苦笑いをした。それから、なくなったあたしの腕と足を見て辛そうな、痛そうな、悲しそうな目をした。ああ、あたしは大丈夫なのに。もう痛くもないし、傷ついてだっていないのに。アレン君がそんな顔する必要なんてこれっぽっちもないのに。自分が傷つくことで他の人も悲しむことになることくらい分かっていたはずなのに、あたしは。リナリーは、手足のないあたしを見てどう思ったんだろう。彼女もまたアレン君のような悲しい顔をしたんだろうか。今頃自分を責めているのだろうか。自分のせいだと思って泣いているのだろうか。
それは嫌だ。とても嫌だ。
「僕、が起きたことをみんなに知らせてきますね。」
「うん、ありがとう。」
パタパタと遠ざかっていく足音を聞きながら、みんなが部屋に入ってきたら今できるとびっきりの笑顔で、ただいまって叫んでやろうと思った。それでみんなが笑ってくれたら嬉しくて泣いちゃうかもね。
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